福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ


《2014.11月−12》

鮮烈な印象を残す幻想的な舞台
【忘れな草 (カンパニー・フィリップ・ジャンティ)】

作・演出:フィリップ・ジャンティ 振付:メアリー・アンダーウッド
16日(日)13:05〜14:35 北九州芸術劇場 大ホール 7,000円


 観たかったフィリップ・ジャンティの舞台は、たくさんのアイディアを緻密に練り上げて大きく膨らませた幻想的な舞台で、鮮烈な印象を残す忘れ難いシーンがいっぱいあってとても楽しめた。

 雪原の中の女性のところに、夢の配達人たちが夢を配達しにやってくる。

 フィリップ・ジャンティの舞台が北九州に来た。喜び勇んで観に行った。期待どおり、ほんとにこれは何なんだ?というフィリップ・ジャンティの摩訶不思議な世界にタップリと浸った。アフタートークを聴いてイリュージョンを生みだすメイキングのたいへんさを感じた。観終わってしばらく経つが、舞台の印象は観たときの鮮烈さのままに残っている。
 今回上演の「忘れな草」は1992年に上演されたもののリニューアル版で、ジャンティがノルウェー演劇学校に招聘された2012年にその授業プログラムのなかで改訂が加えられて再演されたもの。雪景色をはじめどこか凛とした印象がノルウェーを感じさせる。出演者は全員がノルウェーのNord-Trondelag University Collegeの演劇科出身の若い俳優たちだ。

 開幕前の舞台には、中央に大きな厚めのふとん状のものが横たわり、その下手に高さが2メートルを超える岩のようなものがある。上手奥には遠く砂丘のようなものが見える。海辺かなと思ったが、雪原であることがあとからわかる。公共劇場らしい注意事項だらけのくどい日本語のアナウンスのあと、短いフランス語のアナウンスがあって開幕する。
 突然、紫色のドレスを着たチンパンジーが現れる。俳優が頭からすっぽり被ったチンパンジーの面は顔の表情が動いてものすごくリアルで、それと紫色のドレスとの異様な組み合わせには強いインパクトがある。砂丘のような空間にたたずんでチンパンジーがみせる猿とも人とも見えるしぐさは切れ味がよくて、アッという間に別世界に連れて行ってくれる。みごとなつかみだ。
 遠くの砂丘のようなものの上をこちらに向かってくるソリと、そこから降りてくる幾人もの人が小さく影絵で映し出される。ソリから降りたとおぼしき人たちが、真っ暗な舞台に懐中電灯を灯けて登場する。男3人と女4人の俳優たちで、男性は黒いスーツを着て黒い帽子を被り、女性は白いドレスを着ている。それぞれの俳優は自分をコピーした等身大の人形とともに出てくる。俳優が操作する人形は俳優と区別がつかないほどにそっくりに作られているので、14人もの俳優たちがいるように見える。かれらは夢の配達人で、多彩なパフォーマンスが繰り出されていく。

 俳優と人形のパフォーマンスは、全員で演るものからソロまでフォーメーションが多彩で、ユーモラスなキレのいい振付がとても楽しい。俳優とそっくりの人形のリアルさがインパクトを強めていて、ギョッとする世界に連れて行ってくれる。セリフは幾度か繰り返される「猿がわたしの手を食べた」くらい。最初に出てきたチンパンジーとの絡みも少しある。
 俳優たちがショートスキーを履いて登場してのパフォーマンス、大きなふとん状のものの中にもぐり込むパフォーマンスなどがつづいていく。そんななかでも、小猿の人形を腹につけて小猿におんぶされているようにみせるパフォーマンスと、直径1メートル弱の雪玉に入ってのパフォーマンスには大いに笑った。大きな絹製の袋を動かして中に空気をはらませて形を作るパフォーマンスが幻想的だった。
 ラスト、夢の配達人たちは帰っていく。チンパンジーだけの元の静謐な世界に戻る。

 フィリップ・ジャンティの来日公演は今回で14回目だという。バブルのころには福岡での公演もあっていたらしいが、わたしは観たことがなかった。今回、北九州で観られてよかった。終演後に出演者2人を迎えてのアフタートークも楽しかった。
 この公演は北九州ではきょう1ステージ。1階席はほぼ満席だった。


福岡演劇の今トップへ 月インデックスへ  前ページへ 次ページへ