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《2014.12月−6》

とっぷりと浸った
【銀鏡神楽 (銀鏡神社)】

奉納:銀鏡神社氏子
14日(日)19:20〜15日(月)14:00 銀鏡神社別殿前の神楽神庭 無料(寄付3,000円)


 念願の神楽にやっと行けた。とても濃い神楽の世界にとっぷりと浸った。

 銀鏡(しろみ)神楽は、銀鏡神社大祭として毎年12月14日〜15日に奉納される神楽で、単独で国の重要無形民俗文化財に指定されている。銀鏡神社は1489年の創建で、背後の竜房山を御神体とする。神楽は神社本殿から150m離れた別殿前の神楽神庭で奉納される。神楽神庭は、縦5m×横10mの広さに盛り土して周りを石で囲んだもので、高さは60cmほど。その上に筵を敷いてその上で神楽が舞われる。
 銀鏡神社がある銀鏡地区は、いまは合併して西都市だが旧東米良村で、菊池氏との関係が深く宮崎にありながら熊本の菊池藩の飛び地となっていた。銀鏡神楽は米良神楽の系統で狩法神事に山岳神楽の特色がある。
 神社大祭は、12月12日から始まり式一番の「星の舞」は13日の星の祭りで奉納され、14日は夜に神事のあと式二番から式三十一番までが15日の朝まで奉納される。15日はそのあと本殿祭があって、午後に式三十二番の「ししとぎり」と式三十三番の「神送り」が奉納されて神楽奉納が終る。16日は午前に神事があって大祭は終る。

 午後5時半ごろに神社に着くと、境内には食べ物屋などのテントが6張ほども並び、神楽神庭脇の銀鏡伝承館の広間はすでに席取りのシートなどでほとんど覆われている。社務所で寄付を渡すとお札と弁当引換券をいただいた。神楽の解説書を買った。
 銀鏡伝承館の広間に席を取ってあった三重からみえたご夫婦が場所を譲ってくれて何とか席を確保した。神楽は主にその広間に座って見るか神楽神庭の向かいの土間に立って見る。土間にはドラム缶ストーブが置かれている。広間の戸は開け放されているので風が吹き込む。寒くなりそうなので仮眠用の毛布を車から持ってきて腰に巻いた。
 午後7時20分から拝殿と神楽神庭で神事。神楽神庭の拝殿との反対側には大きな孟宗竹と椎の枝などで作った高さ4mの飾りが立ててあって、高さ2mほどのところに捧げ物を載せる棚が作ってある。棚に猪の生首が5個並べられ、大きな盆に山盛りの餅やケース入りの焼酎が置かれる。飾りの高いところから拝殿の屋根に何本か綱が張ってあって、中央に直径1mほどの飾り物が吊られている。裸電球が2個点けられている。神楽神庭に屋根はなく、広間から見上げると星が見える。色紙などによる飾り物は少ない。
 神事に参加されているのは大部分が神楽を舞う人で30人ほど。10人ほどが色付きの衣装で烏帽子をかぶりほかの人は白服で烏帽子をかぶっていない人もいる。高齢者が多いが若者もいる。神事には40分ほどかかった。

 午後8時から神楽奉納。式二番の「清山」から始まり、「花の舞」「地割」「鵜戸神楽」「鵜戸鬼神」「幣指」「西之宮大明神」「住吉」「宿神三宝荒神」「若男大明神」「初三舞」「六社稲荷大明神」「七社稲荷大明神」「神崇」「荘厳」「柴荒神」「一人剣」「神和」「綱荒神」「綱神楽」「伊勢神楽」「手力男命」戸破明神「白蓋鬼神」「オキエ」「室の神」「七鬼神」「獅子舞」「衣笠鬼神」と舞って、式三十一番「鎮守」までが翌日朝までかかって奉納される。
 舞う人の人数は、2人、3人、4人、6人、8人などいろいろで、面をかぶって舞う人以外は白服。手には 御幣、榊、鈴、扇 を持って舞う。囃子は 笛が2人、太鼓、木柾(だと思う)、チャッパ の5人で、舞人と交替しながら務める。1番の時間は30分前後というのが多いが、式二十六番以降は10分ほどの短いものが増える。
 1番の構成は始めから終わりまで同じ動きの繰り返しに見えるが、ゆったりと始まって次第に振幅を大きくして山場を作って最後再びゆっくりになって終る。そういう流れがあって1番1番を際立たせており、それを組み合わせて一晩の大きな流れを作っている。動きは面を着けた神の舞いも含めて前傾気味でのけぞるということはない。普通は比較的緩いテンポだが、激しく飛び・跳ね・廻るというところがあって軽快で敏捷な動きには目を見張らされる。

 式二番から式三十一番は、清め祓い、外来系の神の降居、主神の降居、在地系の神の降居、後半の清め祓い、森と荒神、女神、綱と荒神、伊勢系の神楽、鬼神と豊作・豊猟祈願、祭りの終わり という流れになっている。後半の面(神そのものとされる)を着けた神の舞は姿かたちは華やかだが、派手な動きは少なくてどちらかといえばしっとりと見せる。面は明らかに能面だが時代を経て古さが神秘さを感じさせる。一子相伝の秘伝の舞もあり独特の味わいを醸し出す。多くはないが弓矢や刀を使った勇壮な舞もあり、観る人が神の冠におひねりを投げ入れるというような趣向もある。
 午後8時過ぎに弁当が配られ、後半始めあたりで焼酎がまわされ、最後に猪の生首の肉を炊き込んだ雑炊が振舞われる。すべて男性で取り仕切っているために直会はない。式三十一番が終ったのは午前8時15分だった。すぐに飾り付けの取り外しがされて裸になった神楽神庭の上に椎の枝葉が積み上げられて午後からの神楽の準備がされる。

 車の中で仮眠して午後1時から式三十一番「ししとぎり」と式三十二番「神送り」を観た。「ししとぎり」(狩法神事)は狩の様子を狂言劇にしたもので、夫婦での猪狩りをときに下ネタを入れ込みながらユーモラスに演じる狂言劇が明るい陽の下で演じて奉納される。35分ほどの奉納のあいだ観る人の笑い声が絶えない。そのあと短い「神送り」があって神楽は終った。
 過疎化や高齢化のために旧来の伝統を維持することができにくくなっているなかで、努力されて神楽をされていることに感謝しながら銀鏡神社をあとにした。


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