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《2014.12月−7》

戯曲の評価と舞台の評価は別
【となりの田中さん (HallBrothers)】

作・演出:幸田真洋
19日(金)19:35〜21:20 ぽんプラザホール プレゼントチケット


 1年前の初演を観たときにはそれほどおもしろいとは思わなかった。その後この戯曲がことしの九州戯曲賞大賞を受賞したので今回の再演を観ることにした。戯曲はよくできてはいるが、戯曲の評価と舞台の評価とは分けて考えたほうがいい―という舞台だった。

 2階建て4世帯用のファミリーアパート。住人はすべて“田中さん”で、4世帯とも若い夫婦2人が住人。互いに意識しあいながら暮らしている4世帯だが、DVがらみで警察沙汰になってしまう。

 若干の欠点はあるにしろ戯曲は確かにおもしろい。
 4世帯は、大家とは言っているがオーナーの身内のサラリーマン夫婦(201号)、フリーランスのプログラマー夫婦(101号)、ニートとパートの夫婦(102号)、新興宗教教団の専従員夫婦(202号)という顔ぶれだ。サラリーマン妻とプログラマー妻のライバル心剥き出しのステータス争いなどアパートの状況説明が続いて、ニート夫によるDVがらみの警察沙汰が起こるのは上演時間の半ばを過ぎてからだ。
 そこからは急展開。ニート夫は、専従員妻の働く教団農園で更生中に専従員妻と関係を持ってしまい、そのことが専従員夫にばれてしまう。そのときの専従員夫に対するニート夫の反撃が秀逸。それまでは自分のふがいなさまでを全部他人のせいにしていたニート夫はここで、他人のせいで陥った状況を他人のせいだとちゃんと話す。取り繕った表面を裏返すそのシーンがあるからこの戯曲は成立している。だからラストの中途半端さもまぁいいかという気になる。
 あとでも述べるが、舞台で聴くセリフはくどくて説明的だ。戯曲を目で追って読む分にはそれでちょうどいいという具合になっているということだろう。

 舞台は、くどくて説明的なセリフがこなれないままに提示されていてけっこうナマクラだ。
 この舞台における俳優の動きはセリフの跡づけでしかない。身体が先にないからセリフは口先ばかりになってしまう。動きらしい動きが少ないから、舞台の大部分は耳だけそばだてていればついていける。
 開幕してすぐのケーキが“おいしかった”という繰り返しなど、度を越した執拗な繰り返しをする個所がある。理由もなく身体も伴わない口先だけの空疎な繰り返しは幼稚さ丸出しで聴くに堪えず、舞台の品位を下げている。繰り返しをやる必然性があるならばちゃんと表現レベルにまで高めるべきだろう。
 俳優では、ニート夫の高柳一輝と教団専従員妻の永倉亜沙美がよかった。ベテランと目される俳優ほど形に囚われた演技をしているのが気になった。

 この舞台はこの一年続けてきた劇団15周年記念・公演ラッシュの最終第4弾。これは再演だが、他の3作品は新作だった。創作欲は旺盛だ。
 この劇団は十数年前から観ている。初期のころは人間のおぞましさを描いたおもしろい作品も多かったが、劇団名を HoleBrothers から HallBrothers というなんとも味も素っ気もない名前に変えてからは、そそられる舞台が減ったので観劇する機会も減っていた。この舞台は、切実な実体験をとある舞台の影響を受けて作品化した力作であることにまちがいはなく、初期のころの作品と繋がってきたという印象がある。15周年を迎えてこの際、劇団名も刷新してつぎのステップに向かってほしい。
 この舞台は、第6回ぽんプラザホールロングランシアターとしての公演で、11日から23日まで14ステージ。満席だった。終演後30分ほど、関西の俳優・坂口修一氏を迎えてのアフタートークがあった。


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