上演時間30分という短い一人芝居だが、実体験に裏打ちされたリアリティがあっておもしろかった。
不動産管理会社のクレーム処理担当者の、管理物件で死者が出た一夜を描く、金田公広自作・自演の一人芝居だ。
会場の劇団風の子九州の稽古場は6坪強の広さ。その一角に斜めに張られた線には両側から紗が吊るされ、真ん中に空いた1.5mほどの空間が舞台だ。舞台に敷かれた薄い敷布団の上に金田公広が、緊張はしているが手持ち無沙汰の感じで座っている。上手の紗の前に音響などを担当する女性がテーブルに向かっている。スタッフは彼女1人だ。舞台の手前には20人ほどが座れるゴザと高めのクッションを置いた客席が作られている。
時間になると、「開演します」と金田公広は言って、上手に引っ込んですぐに電話しながら登場する。ガールフレンドとあす映画に行く約束の電話で、それがまだ終らないうちに会社のコールセンターから電話。管理物件の入居者の勤務先の社長から、出勤しない従業員のアパートに確認に行きたいという。
ここから怒涛の一夜が始まる。単身赴任の従業員はアパートで死んでいた。警察を呼び鹿児島の川内の妻に電話して至急来てもらうように手配。諸々の対応をしているうちに夜が明けて、ようやく着いた入居者の妻と娘に引き継いで家に帰ったら、次のクレーム対応の電話が。
実体験ならではのリアリティがある。管理契約書に書かれた責任範囲で対応するための努力が涙ぐましい。鍵を開けるのに鍵屋を呼ぶ費用が入居者負担であることをていねいに説明して勤務先の社長に払ってもらう。鍵の開け方の種類からそれぞれの費用まで仔細に社長に説明する。第一発見者になるとあとで手間取るので、第一発見者を社長とするようにさりげなくもっていくなど、クレーム処理担当者のノウハウがいくつも語られる。
電話した警察の杓子定規な対応に苛立ち、死体に触れてオエ〜ッとなり、その死体のうっ血に驚き、パトカー内での社長の第一発見者聴取のあいだ死体と2人きりになり・・・と、微細に状況が語られていく。そんな中から、57歳の死亡者の会社や家庭での様子も少し伝わってくる。
そんな一夜のことを30分の上演時間にうまくピックアップして凝縮している。“不動産管理会社のクレーム処理ってどんなことをどうやるんだろう?”と興味津々なところを、具体的な行動で示して“あぁそうやるのか”と少しわかってくる。そういう疑似体験に近い感覚がおもしろくて飽きることはない。さりげなく見える脚本だが、電話がうまく使われるなどの工夫がこらされている。
しゃべりはとても自然だ。変な強調をしないまさに現代口語演劇のしゃべりで、実にテンポよくて説得力がある。本人に言わせるとクレーム処理をしているときのしゃべりそのままだというが、実際に舞台でそれを演るのはそう簡単ではない。死体代わりの等身大の人形や、タクシーの座席代わりのキャスター付きのイスなどの工夫もおもしろかった。
金田公広は若いころ前進座に在籍していて歌舞伎や現代劇の多くの舞台を踏み、劇団のヨーロッパ公演にも参加した。劇団風の子九州に所属して児童劇にも出演した。
その後不動産管理会社に勤務し、クレーム処理は会社に入って初めての仕事だったという。不動産ネタはまだいくつもあるようで、取材しなくていいのが強みだ。
この舞台は1ステージだけのシークレット公演で、観客は13人だった。終演後、観客ひとりひとりが感想を述べた。次は「女殺油地獄」をやりたいという。ぜひとも早く実現してほしい。