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《2014.12月−13》

戯曲への肉薄がまだ不十分
【創作コンペティション 近代能楽集「葵上」 プレゼン審査 (福岡市文化芸術振興財団)】


27日(土)13:00〜16:00 ゆめアール大橋 中練習室 無料


 「創作コンペティション 一つの戯曲からの創作をとおして語ろうvol.5 プレゼン審査」は、来年の福岡演劇フェスティバルで上演審査する3名を選ぶための審査で、応募の26名から書類審査で選ばれた7名が演出プランのプレゼンを行った。
 課題戯曲は三島由紀夫の近代能楽集より「葵上」。審査員は、岡田利規(チェルフィッチュ)、前川知大(イキウメ)、松井周(サンプル)、森山直人(演劇批評家)、山田恵理香(空間再生事業劇団GIGA)、山田真実(ttu/創作コンペティションvol.4最優秀作品賞受賞)。
 プレゼンは、各人、発表10分と質疑応答10分の計20分で行われた。司会は福岡演劇フェスティバル事務局長の糸山裕子さん。観覧者は約30人で、観覧者にはプレゼン資料が貸与された。

 最初に司会から審査員紹介が行われ、そのあと主催の福岡市文化芸術振興財団の原さんから事業説明がなされた。
 そのあとプレゼン審査に入った。

【山下キスコ(揮発タブレット)】
 “生霊が葵・光・康子の3人の情念でできた”という基本的な解釈までで終っていて戯曲の読み解きが不足している。演出の狙いとその表現方法の検討も不十分なために、「情念を立ち上げたい」という決意表明だけで終った。

【木村佳南子(非・売れ線系ビーナス)】
 演出のコンセプトは“六条(康子)の地位向上”と“光=三島由紀夫という見立て”で、葵・康子・看護婦の3人の女性を一人の女優が演じるところがキモだが、女性の地位の捉えかたは甘くて演出プランとしては弱い。

【藤原佳奈(mizhen)】
 ユタ体験から得た、肉体からはみ出た“意識”がありうるのではないか―というところからアプローチして、葵・光・康子の夢が重なった構造だと解釈。その3人の意識の揺れ動きを空間の色味の変化で表すとする。葵役と康子役の女優が登場して舞台のイメージを示したのも効果的だった。

【和田ながら(したため)】
 戯曲「葵上」は“純化された感情のかたまり”なので、手持ちの手法では表現できそうになく途方に暮れたというところからアプローチ。葵が過去の陶酔を取り返すための復讐劇だと位置づけた演出プランとして、葵の“助けて!”の叫びに三島由紀夫の最後の演説時の“静聴せよ!”を入れるというのがおもしろい。パワーポイントを使ったプレゼンだった。

《休憩15分》

【舘亜里沙】
 “葵がドラマの中心”と“音楽が葵の状態を表す”というオペラの演出家らしいコンセプトで、映像を見せながらのプレゼン。すべてが葵の心の中で起こったこととして、康子が3人登場し葵だけにヴォーカリズムを出すような演出プランがおもしろい。

【村社祐太朗(新聞家)】
 “一人芝居で移動なし”と“発声手法と身体動作をテキストに厳密に記号で記載して指示”というのが演出の概観。「暗唱テスト」とか「パローレ」とか方法論はむずかしかったけれど、「類似性」を想起し繋げていって「せめぎあい」状態を作り、それをキャラクタを払拭して演らせる、というのは魅力的でおもしろそうではあった。文字数たくさんのパワーポイントを使ったプレゼンだった。

【萩原雄太(かもめマシーン)】
 “葵にフォーカスした一人芝居”の形で上演する。葵を不条理にさいなまれた人として現代人に向き合わせるが、近代劇の手法では葵を扱いきれない。身体をネットワークとして捉え、身体を物質ではなく現象として捉えて、“近代能楽集”を“近代”でない形で上演して身体の再構築をしていくことで社会と繋がりたい。その構想は実現すればおもしろいだろう。スカイプを使って太極拳を映しながらのプレゼンだった。

 それぞれのプレゼンへの審査員の質問も個性が出ていておもしろかった。
 全体的にはどうデコレーションするかに関心が集中していて、戯曲にちゃんと肉薄するより前にやりやすい方向にイメージを膨らます傾向が目立った。前川知大(イキウメ)からの質問が比較的少なかったことがそれを示している。戯曲の構造をもっと精緻に分析してトータルとして深く捉えた上でどう演出するかを考えるべきだろう。
 上位3名を選ぶのはなかなかむずかしい。挑戦的な上演を提案した 萩原雄太(かもめマシーン)、村社祐太朗(新聞家) の舞台を観てみたいと思った。藤原佳奈(mizhen)、和田ながら(したため)、舘亜里沙 は横一線という感じだった。


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